境界線
※食満さんの腕が吹っ飛んでたりと
グロい表現があります、閲覧注意


凄まじい爆音と爆風がして、気付けば地面に這い蹲る形で身体が投げ出されていた。
何が起こったのかと理解するまでにそう時間は掛からず、自分が何らかの爆発に巻き込まれ吹き飛ばされたのだと妙に冷静な頭で判断した。頬から血が垂れる感覚がしたものの殆ど無傷である自分の身体に短く息を吐く。

六年生全員合同での外部実習。
六人でいれば怖いもの無しだと信じて疑わなかった。事実、つい数分前までは順調に事が進んでいたのだ。
今回の実習内容は、敵城から極秘書物とされている巻物を取ってくること。念の為にと、雇われ城から何人か精鋭も付けられた。闇を縫う様に敵城に潜入し、巻物も頂戴し、後は城に戻り実習終了となる筈であったのに。


…なんだ、これは。


敵城に見つかり爆発物を投げつけられたのは確かだ。辺りは硝煙と砂埃で視界が悪く、自分以外の人間が何処にいるのかが分からない。下手に動くのは危険か、仲間は無事か、精鋭はどうした、自分は生きて帰れるのか…短時間で色々な思考が脳裏を過ぎる。
下手に動くのは危険だが、ここに留まる訳にもいかない。兎に角仲間の姿を見つけなければならない。足音を立てないように一歩踏み出した時だった。

「留三郎、しっかり、大丈夫だからね」

聞き慣れた声が前方で聞こえた。
…伊作だ!生きている!
簡単に死ぬ訳がないとも思っているが不安もあった。一刻も早く姿が見たいと硝煙の中に揺れる陰に走り寄った。

「伊作、無事か?!とんでもねぇことに、…な、った」

揺らめく輪郭からハッキリとした物体に。伊作はそこにいた。跪く伊作の前には地に横たわった留三郎の姿もあった。そして、あまりに異様な光景に思考が凍り付いた。


…なんだ、これは。


留三郎の右肩から先がなかった。留三郎は気絶しているのか、…もう命を落としてしまったのか、目蓋を伏せぐったりと身体を投げ出していた。
その傍らで伊作が千切れてしまった腕を必死で傷口に当て、くっつけようとしていた。何故繋がらないのかさも不思議そうに困った様に眉間に皺を寄せ、空いている方の手で留三郎の身体を揺さぶる。

「なんでくっつかないの?ねぇ留三郎も起きて手伝ってよ、僕だけの力じゃ駄目みたいだ。早くしないと腕が腐っちゃうよ、ねぇ…」

ぶつぶつと呟きながら何回も何回も断面をくっつける伊作。その度に耳を塞ぎたくなる様な肉と肉がぶつかる音がして、吐き気を堪えられずその場に吐いた。敵に見つかるなんて最早頭になかった。…伊作が狂ってしまった、留三郎が死んだかもしれない、他の六年はどうした、誰か助けてくれ、数分前の平穏を返してくれ、全てが夢であってくれ。
 
その時背後でまた爆発音がした。誰かの悲鳴が上がったが、誰の声だったかも判断できない。もしかしたら自分だったのかもしれない。地面に跪いたまま、命を落とすかもしれないという恐怖よりも、級友が狂ってしまったという恐怖にただ支配されていた。

「留三郎、そろそろ起きないと僕困るよ。腕をつけないと。なんだか辺りが真っ赤なんだ、何があったんだろう?ところで留三郎はなんで腕が取れちゃったの?はやくつけて、ねぇ、」

俺はその日、日常と非日常の境界線を初めて見た。
学園に帰るんだ、全員で、これは夢だ、大丈夫だ…
意識を落とす前の俺が最後に見たのは、留三郎の腕を大事そうに抱えて虚ろな瞳で薄ら笑いを浮かべる伊作の姿だった。

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無駄に長い。文次郎さんご苦労様でした。
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